来月から週2回
私はこの豪邸の門をくぐることになる


アメリカ中、いや世界中の誰もが
その名を知る大スターが
私の新しい雇い主だ


今日は道を確認するために下見に来たのだが、
想像以上の大きさにしばらく呆然とした


まるでお城だ


大学で研究員助手をしながら2歳の息子とつましく生きているシングルマザーである私が
この特殊な仕事に就くことになったのは
こんないきさつからだ


ある日
グラント教授に名前を呼ばれた


「知人を通じてあるセレブから家庭教師を紹介して欲しいと頼まれてね。キミを推薦しようと思うのだが、何か問題はあるかな?」


研究室で最も下っ端の私が
ピラミッドの頂点に君臨する教授に向かって
何か意見することなどあり得ない


詳しい説明も求めずに承知した



数日後、指定された場所へ赴くと
サングラスにスーツ姿の屈強な男性2人と
上品な年配の女性がひとり私を待っていた


レジュメを渡して自己紹介を行い
2・3簡単な質問に答える


先方の私への接し方は
とても好意的だった


グラント教授はDNA解析の分野ではかなりの権威で
世界から注目と尊敬を集める人物だ


彼の推薦状が
私への評価を実際以上に高めてくれているであろうことに疑いはない


1週間ほどして
また教授に名前を呼ばれた。


「キミの採用が決まったよ」

「はぁ‥」


あまりに唐突だったので
すぐには教授が何について話しているのか分からなかった


「おや。もっと喜んでくれると思ったのだが」

教授が意外そうな顔をした。


ようやく事態が飲み込めた私は

「あぁ、例の家庭教師ですね。採用ですか。ありがとうございます」

と言ったものの
[採用]と聞いて困惑していた


研究室の仕事はどうなるのだろう


地道な実験の繰り返しだが
世界の先端研究のほんの端っこに携わっていられることが
私の誇りだった


それに私は教授を慕っていた

人間として尊敬していた

彼のそばで仕事を続けたかった


私の困惑を見透かしたように
グラント教授が口を開いた