電話は来なかった


私の解雇を知らせる電話


あの日以来

いつベルが鳴るかと気が気ではなかった


今日は彼に教えにいく日だ

私は本当に解雇されなかったのだろうか

いや

門まで行ったら追い返されるのかもしれない


何となくはっきりさせたくて

とりあえず準備をすませ

彼の屋敷に向かった


門前でドキドキしながら

顔を見知ったセキュリティーに

ぎこちなく微笑みかけると


「ハイ!ディー。今日もきれいだよ」

いつも通りお世辞を飛ばして門を開けてくれた


部屋に入ると彼は居なかった

やはり、という気がした

彼のスタッフの誰かが来て

直接解雇を言い渡されるのだろう


覚悟は出来ていた


燦々と陽の光が降り注ぐ窓辺に立ち

その時を待った


かちゃり

とドアの開く音がして


私は一呼吸してから静かに振り向いた


「ヒッ!!」

私はその場にへたり込んだ


お化け‥!?


いや、よく見ると

全身をマントで覆った黒尽くめの大男が

真っ白な面をかぶって立っていた


私が眼をしばたかせると

「イッヒッヒッヒッ」

という笑い声が部屋中に響き渡り

マスクを外した彼の顔が見えた


彼はマントを脱ぎ捨て、

高いヒールの靴も蹴飛ばすように脱ぐと

おなかを抱えて笑い出した


「ヒーッヒッヒッヒ!アーッハハハ!」

しまいには踊るようにジャンプしながら


「ディーの怖がり!ムフフフ、ヒーッヒッヒッヒ」

彼はいつまでも笑っている


私は次第に腹が立ってきた

こんな簡単な子供だましに引っかかった自分に

覚悟を決めて神妙に部屋で待っていた私を、

拍子抜けさせ馬鹿にした彼に


「怖くなんか‥!ちょっと驚いただけ」

彼はまだ小刻みに身体を揺らしている


「大人をからかうもんじゃないわ」

まだニヤニヤしている彼に、

出来るだけ大人ぶって告げた