そう言った直後。行生の手が不意に藍の背中に回され―――ふわっと、世界が優しく動いた。
気づくと藍は行生の腕の中にいた。そっと包み込むように、だがしっかりと、行生は藍を抱き寄せる。藍の知らないパーカーからは潮の香りと一緒に行生のにおいがした。
くぐもった行生の声が、耳朶を揺らす。
「帰ってくる場所があるって、いいな」
二年前よりさらに背の伸びた幼なじみが肩に顔を埋めると、短くなった髪の毛が藍の頬に刺さった。風に揺れて、すこしくすぐったかった。
「………ばか」
藍の声は、あっさりと行生の体に吸い込まれて消えていった。
「うん。だけどこんなばかのために泣く藍もよっぽどじゃね」
「うっさい」
苦笑する行生の息が首筋に触れた。それが予想以上にくすぐったくて、藍もすこし笑った。

