入っていたためしなどないくせに、いかにもそこに入っているものを取り出そうとするように慌ただしくポケットに手を突っ込む。
 しかし結局、探していただろうハンカチがないことに気づくと、行生はおずおずと手を伸ばし、藍のぐしょぐしょに濡れた頬に直接指を添わせた。ぎこちない動きが優しくて、嬉しくて、苦しくて―――いつになったら泣き止むのか自分でも不安になるくらい涙は衰えを知らなかった。

 ……兵役中、なにがあったのかは、藍にはわからない。

 けれど、片目の視力を失った事実だけははっきりとわかる。動かない。見てくれない。目を合わせてくれない。彼の目に自分は、片方しか映らない。
 そのことが、どうしようもなく悲しかった。同情とかじゃなくて、私を見てくれないというそのことが、すごくすごく、辛かった。

「……ちょっとな、向こうであったんだよ。だけど、俺の目と引き替えにしても上官が怪我を負わなくて済んだから、それはすごくよかったなってほんとに思う。あんま、こういうの好きじゃねーけど、しばらくの間は一定額の治療手当振り込んでくれるって言ってたから心配いらねーよ」
「……お金の話じゃないでしょ」

 片目の光を失った現実を、金銭という代償でまかなおうとするやり方に無性に腹が立つ。これから先、一生片目での生活を余儀なくされたというのにしばらくの間だけというふざけた期間設定にも怒りがこみ上げた。面倒を見るというのなら、最期まできっちり世話をしろ、と言いたくなる。

 泣き止まない幼なじみに行生は苦笑した。


「本人以上に泣いてくれるヤツなんて、藍くらいだな」