そこでふと、藍は小首を傾げた。レンズの奥の目に、なんとなくだが違和感を覚えたのだ。

 ―――気のせいか?

「藍はいま、なにやってんだ」
「私? 私はいま、伯母がやってるシニア書道スクールの講師の補助と実家の畑手伝ってる。頼まれたときは行生の家も手伝ってるよ」

 行生の実家はここらでは一番上手いと言われる評判のラーメン屋で行生の祖父の代から続いている。

「陽生(はるき)くんが本土の企業に勤めちゃったから行生は今からお店で修行するの?」
「そうなるかな」

 陽生は行生の兄で、体力面で学年トップを競っていた行生とは正反対の頭脳派な人だ。兵役中の活躍は中の下以下だったらしいが、服役後は自身の賢さを存分に活かし一流大学を卒業して有名企業に就職した。


「―――危ない!」

 とつぜん行生に腕を掴まれ引き寄せられた。