「私ぃ、キャラメル味にするからぁ、前田君は、チーズ味にして、半分こにしようよ。」

十二歳にしてすでにフェロモン全開な若菜ちゃんは、ねっとりとした声で言うと、前田君の腕に飛び付いた。

「ああ、いいけど。」

前田君もまんざらでもないようで、二人の周りは、ピンク色オーラが、漂っている。

おい、前田。

お前は、クールが売りじゃないのか。

「あ、あの、塩味ください。」

ポップコーン売り場の店員さんの口が、への字になっていることに気が付いた私は、慌てて人気のない味を注文した。

飲み物を待っている二人を置いて一足先に列を抜けた私は、石川君が、待っているベンチへと急いだ。

待ち合わせのベンチに石川君の姿を見つけた私は、走り寄ろうとしたけれど、石川君の隣に座っている人物に気がついて、足を止めた。

「げ。」

会いたくない人ナンバーワン。

道行く人が、ベンチの方をちらりと振り返る。

ドイツ人のお祖母さん譲りの整っていて彫りの深い顔立ちとブラウンの髪は、学校の外に出ても目立っている。

名前は、もろ日本人のくせにクウォーターなんだよね。

「お、小糸ちゃん。お帰り。」

邪魔者扱いされるの覚悟で、若菜ちゃん達の所に戻ろうと思い、後退りした私に気が付いた石川君が、空気を読まずに声をかけてきた。

もう、やめてよ。

遠足をエンジョイしているところなのに。

私の切実なる願いにもかかわらず、一平ちゃんが、振り向いた。

「花ちゃん?」

逆光で顔が見えにくかったようで、一平ちゃんの声は、疑問系である。

できれば、否定したいところだったけど、そういうわけにもいかないので、仕方なく頷いた。

「うん。石川君待たせて、ごめんね。若菜ちゃん達は、飲み物買ってくるから、もう少ししたら来ると思うよ。」

そう言って、石川君の隣に腰を下ろした。