日吉一平は、私の通う小学校では、ちょっとした有名人である。

その一平ちゃんのせいで、三組の班決めは、パニックになったらしい。

小学校最後の遠足で憧れの人と回りたい。

行き先は、遊園地だから、あわよくば、コーヒーカップや観覧車で見つめあいたいと目論んだ女の子達は、一触即発の駆け引きを繰り返したそうだ。

結局、五回に及ぶあみだくじと真っ黒な談義の末に決定した班は、一平ちゃんの班だけ男子2人女子4人の偏りっぷりだったらしい。

クラスの男女比は、2:1なのに、3組の男子は、憐れである。

「でも、あれって、扇動的っていうか、一種の伝染病みたいなものじゃない。女子で1番人気の麻由ちゃんが、ちょっといいなって言い出してからでしょ。皆がいいって言うから、かっこよく見えてくるのよ。私だったら、前田君のが、百倍カッコイイと思うけどね。」

メガネフェチで色白神経質系好きの若菜ちゃんは、不満げにピーナッツの殻を飛ばした。

予想以上に飛んだ殻は、三つ斜め前の前田君の頭に当たった。

「ごっめ〜ん!」

若菜ちゃんは、打って変わった高い声で謝ると、私の腕を取ると、前田君の座っている席に近寄った。

・・すごいなあ。

うれしいそうに前田君に擦り寄る若菜ちゃんを見て、妙に感心した。

付き合わせた私を放りっぱなしっていうのは、どうかと思うけど。

持て余した私が、手遊びをしていると、肩を叩かれた。

「小糸ちゃんは、初めにどこ行きたい?」