バスに乗り込むと、すぐに仲良しの若菜ちゃんに奥の座席に引きずり込まれた。

「ちょっと、花。あんた、日吉君とどういう関係なのよ。」

引き込まれた勢いでバランスを崩した私の上にのしかかる様にして若菜ちゃんは、鼻息荒く迫ってきた。

「どうって、別に。一平ちゃんとは、幼稚園が一緒で、同じ町内だけど。」

私の言葉に一瞬若菜ちゃんの動きが止まった。

「幼稚園!」

突然、若菜ちゃんが、叫んだ。

「同じ町内!」

いつから、聞いていたのか、後ろの座席の由加里ちゃんが、顔を出した。

「幼馴染!」

由加里ちゃんの隣の由美ちゃんも顔を出した。

「そこまで、昔からじゃないけどね。まあ、そうともいうかな。」

嫌な話題を終わらせたくて、とりあえず、テキトーに相槌を打った。

「「「何たる甘い響き!」」」

三人の悲鳴にも似た高い声が、響いた。

もっとも、遠足の日のバスって、とにかく騒がしいから、大声でさえ、ほとんどかき消されちゃうけどね。

「大げさな。しょっぱくはないけど、甘くもないよ。」

前の座席から回ってきた袋には、柿の種の周りにチョコレートが、コーティングされている代物が、入っていた。

どうかなって思ったけれど、辛くて甘いのも意外といけるかも。

調子に乗って一人でポリポリ食べていると、若菜ちゃんに肩を揺すられた。

「ちょっと、花。あんた、せっかくの幸運を無駄にしてるよ。だって、あの日吉一平君だよ。頭いいし、顔いいし、野球も上手。」

「ニュートンより馬鹿で、福山よりブサイクで、ハンカチ王子より野球が下手くそな奴のどこがいいの?」

若菜ちゃんは、あからさまに呆れた顔をすると、ため息をついた。

今日で三度目。

まだ、十時前だよ。

「花ちゃんてば、うける〜。」

後ろの席からは、由美ちゃんの笑い声が聞こえる。

ふんだ。

皆して、私を馬鹿にして。