駅の北口を出て、右手に進むと、小船商店街に入る。

わりと大きな商店街だ。

不思議なことに南口にある格安スーパーオカジマとも持ちつ持たれつ上手くやっている。

多分、近くに高級住宅地があるからだろう。

昔懐かしのレトロな雰囲気を持つ商店街は、わざわざ遠くから足を運ぶ人もいるらしい。

八百屋の田中商店とパン屋の朝倉屋に挟まれている小さな文房具店が、私の家。

亡くなったおじいちゃんの店をお母さんが引き継いだけれど、普通の文房具店というよりは、輸入雑貨店と呼ぶ方が適切な気がする。

ショーウィンドーの中は、お母さんのファンタジーランドの具現化。

絶対売れないであろう年代物のろうそく立て。

バナナみたいな鉛筆削り。

幾何学模様のレターセットは、売れ筋商品だ。

おじいちゃんの代は、普通の文房具店だったけれど、お母さんは、声楽をやっていた時に知り合った友人を介して、ヨーロッパから雑貨を仕入れている。

もう習字ペンや400字詰め原稿用紙はないし、客層もおしゃれな人達に変わった。

だけど、お店の名前だけは、昔と変わらず、小糸屋だ。

ちなみに会社員のお父さんは、婿養子である。

閉店時間を過ぎているので、店内は、薄暗い。

二階からカレーの匂いが、漂ってきている。

今日は、カレーだ。