かれこれ1.5ヶ月間、掃除当番を務めているけど、今週の掃除当番は、気楽だ。

綿貫先生は、男性なので、女子トイレ掃除のチェックが甘い。

放課後のトイレは、静まり返っている。

「そして、誰もいなくなった」

ちなみに背後で呟いているのは、若菜ちゃんである。

トイレの中には、班長の私と若菜ちゃんしか残っていない。

トイレ当番の週は、班長だけ取り残して、トンズラをするのが、常識なのだ。

しかし、若菜ちゃん。

一緒に残ってくれるのは、ありがたいが、トイレの花子さん的ノリで背後に立つのは、やめてほしい。

「さっき、貴巳君と何話してたのよお。」

恨みがましい声が、トイレに響いた。

「ええと、タカミ君て、どちら様?」

「前田君よ。あんたの隣の席の前田貴巳。」

やっと若菜ちゃんの虫の居所が悪いわけが分かった。

「前田君の下の名前って、タカミっていうんだね。」

しゃれにならない名前だよ。

人を高見から見てるやつにピッタリだ。

「下の名前で呼んでいいのは、私だけだからね。」

「へえへえ。」

そいつは、すみませんね。

頼まれたって、ご免こうむりますよ。

「それで、何を話してたのよ。」

若菜ちゃん、別に小声で話すことないと思うんだけど。

まあ、いいや。

内緒話が好きなお年頃だしね。

「議題は、恋。内容は、般若と鬼の違いおよびひねくれ者と正直者の関係性について。」

「何それ。」

若菜ちゃんは、あからさまに呆れた顔をした。

私だって、君には、呆れているのだよ。

「若菜ちゃんて、なんで前田君が好きなわけ?」

私の質問を聞いた若菜ちゃんは、しばらく沈黙した。

「・・・そんなの分からないよ。」

「え。」