完全に我を失った私は、目の前の影を必死に叩いた。

「イテ!おい、ちょっ、やめろよ。」

焦ったような声にやっと自分が、叩いていたものが、人間の胸だと理解した私は、恐る恐る顔を上げた。

その先にある顔が、さっきまであんなに見たくなかったはずなのに今はそこにあるのが、多分他の誰より当然だと思える自分を悔しくて情けなく思った。

「落ち着け。俺だよ。お化けじゃない。」

一平ちゃんは、胸に置かれた私の手をとると、そっと握った。

その握り方は、意外にもとても優しかった。

ほっとしたのと同時に立っていられなくなった私は、その場にへたりこんでしまった。

「ど、どうして?」

「外で石川達に会ったんだよ。お前が、遅いって心配してた。ったく、なんで一人になるんだよ。お前って、ホント考えなしだよな。」

座り込んでしまった私の前にしゃがみ込んだ一平ちゃんは、呆れたように言った。

「ご、ごめん。」

普段だったら、払いのけるはずの一平ちゃんの手を縋るように握り返した。

「とりあえず、出るぞ。立てるか?」

一平ちゃんは、私の手を握ったまま、立たせようと引っ張った。

「…無理っぽい。」

腰が、抜けてしまったらしい。

一平ちゃんの手を開放した私は、未だにぶるぶる震えている両手を地面について、なんとか立ち上がろうとしたけれど、地面を這うことしか出来なかった。

「しょうがねえな。おい、ほら。」

一平ちゃんは、ため息をつくと、私の前にしゃがんだ。