「へえ。石川君て、ホラー映画好きなんだ。私もだよ。大晦日とか、一人で朝まで見てたりするよ。」

最初は、あまり石川君に興味を示さなかった由美ちゃんだけど、石川君の甲斐甲斐しい努力の結果、だんだん友好的な態度を取り始めた。

「え、いや、そこまでは・・・いやいや。そ、そう俺も俺も。」

マイペースな由美ちゃんに涙ぐましいほど、頑張る石川君。

二人の会話が、弾み始めた頃、やっと順番が回ってきた。

・・私にとっては、「とうとう」である。

ホラー映画ネタで盛り上がっている二人の後をついてお化け屋敷に入った私は、ちょうど隠れやすそうな大きな井戸を見つけた。

「石川君。そろそろ、私抜けるから頑張ってね。」

「あ、ありがとう。じゃあ、出たところで待ってるから。」

耳打ちすると、石川君は、少し照れたように頭を掻くと、お礼を言った。

満足げに頷いた私は、二人の声が、聞こえなくなるまで井戸の後ろに隠れていた。

お化け屋敷が、なんぼのもんよ。

ちゃっと出てしまえば、怖くない。

良いことをしたと思って気分の乗っていた私は、鼻歌まじりに歩き出した時だった。

「ご機嫌ですね、お嬢さん。いいことが、あったんですか?」

「うん。私、キューピッドってやつになれそうな感じなんです。」

そう言って、後ろを振り返ると、薄暗がりに浮かぶ女の人が、立っていた。

その顔には…。

指先が、冷たくなって体中の血の気が、引くのが分かった。

自分の声とは、思えない金切り声が出た。

青白い光の玉が、そこら中に浮かぶ通路を必死に走った。

運の悪いことにそのお化け屋敷は、迷路仕立てになっていて、闇雲に走れば走るほど、迷い込んでしまう仕組みになっていた。

どれぐらい走っただろうか。

半泣き状態の私の前に突然何かが、現れた。

「ギャー!」

つんざくような響き渡った。