初めてキスされたのは、確か幼稚園の時だった。

まだ小さかった私は、正直言ってその行為が、よく分からなかったし、どんな風だったかも全然覚えていない。

ただ、あんなことが、あったなあというくらいの記憶が、残っているだけである。

かくれんぼの時に花壇の裏に隠れた私は、照りつける太陽の光が、暖かくて、ついうとうと寝てしまった。

唇に生温かいものを押し当てられて息苦しさに目を覚ました時には、あの子の顔が、目の前にあった。

ただ驚いて何も言えなくて、口をパクパク、目をパチパチと動かす私をあの子は、面白そうに眺めた。

「花ちゃん、今の何だか知ってる?」

当然の如く、私を首を横に振った。

「キスっていうんだって。」

ふうんと私は、呟いた。

「キスをすると、大好きな人を喜ばせられるんだよ。」

その言葉に私は、ちょっと考えてから答えた。

「一平ちゃんは、私のことが、大好きなの?」

私の言葉に一平ちゃんもちょっと考えて込んでしまった。

「・・よく分かんない。泥だんごを投げてくる早紀ちゃんより泣き虫の愛美ちゃんより僕の膝の上でよだれを垂らす陽菜ちゃんよりは、好きだけど。」

一平ちゃんは、自信なさげに言った。

「じゃあ、間違いだよ。」

「なんで?」

一平ちゃんは、不思議そうに私を覗き込んだ。

「だって、私は、喜んでないもん。」

「そっか。」

一平ちゃんは、ちょっと残念そうに唸った。

「それから、陽菜ちゃんは、桃組さんで、まだ小さいんだから、あんなこと言っちゃだめだよ。」

一平ちゃんは、しまったという風に口を隠した。

「もう言わないよ。だから、先生に言いつけないでね。」

それだけ言い残すと、一平ちゃんは、駆けていってしまった。

こんなこと、もうどうでもいい昔の話だけど。