愛のない世界

男は、彩香の深紅色の雫に気付いた。


そして、飲み続けた。

溢れ出す前に、零れる前に、優しく優しく唇で拭い続けた。



彩香の雫が枯れ果てるまで、いつまでも飲み続けていた。



男は、彩香を愛し始めていた。



紅い雫を飲み干した後、男は彩香の汚れた躰を清めるかの様に、傷付いた部分を幾度も幾度も口づけを施した。


髪の毛、おでこ、頬、瞳、耳たぶ、鼻、唇、首筋、鎖骨、脇、胸、腰、臍、背中、臀部、腿、膝、ふくらはぎ、爪先…


彩香の指は、白く細くて甘美な味がする。


時々、このまま食べてしまいたくなる衝動を抑えながら、男は彩香の指を一本つづ舐めていった。


互いの傷を、舐め合うかの様に…