「……随分私は異常な人間だと、あの女から聞いていたことでしょう。
今思えば、恥ずかしいことね。哀れなことにあんな男に夢中だったのよ……」
夫人は煙が華子の方に行かない様に、勢いよく吹いた。
「私もあの人とは不倫から始まったわ。
私にとっては恋だったのだけれど……
あの人にとっては違った……前妻との天秤にかけて、私の方がよかっただけ。
私は誰と比べても重たくて、それで勝ち取っただけ。
でもあなたは……」
「量れなかったんでしょ……自分のバランスが取れなくなるほどに」
夫人は壁にかけてある振り子時計を淡々と眺めながら
煙と一緒に吐きだした。
「もう何年前になるかしら……
きっとあなたがあの人を振り切った時、あの人はなり振り構っていられなくなった。
私を見る目も、子供を見る目も曇っていて……。
家の中をウロウロして……。
勿論そんな彼を許すわけはなくて、どうにか振り向いて欲しくて
“そうだ、新しい赤ちゃんが出来たら大切さに気付いてくれるかもしれない”なんて
子供に望みを託してみたりして……
馬鹿な道を選んだわ」

