私に恋を教えてくれてありがとう【下】


「……随分私は異常な人間だと、あの女から聞いていたことでしょう。

 今思えば、恥ずかしいことね。哀れなことにあんな男に夢中だったのよ……」

夫人は煙が華子の方に行かない様に、勢いよく吹いた。

「私もあの人とは不倫から始まったわ。

 私にとっては恋だったのだけれど……

 あの人にとっては違った……前妻との天秤にかけて、私の方がよかっただけ。

 私は誰と比べても重たくて、それで勝ち取っただけ。

 でもあなたは……」


「量れなかったんでしょ……自分のバランスが取れなくなるほどに」


夫人は壁にかけてある振り子時計を淡々と眺めながら

煙と一緒に吐きだした。


「もう何年前になるかしら……

 きっとあなたがあの人を振り切った時、あの人はなり振り構っていられなくなった。

 私を見る目も、子供を見る目も曇っていて……。


 家の中をウロウロして……。


 勿論そんな彼を許すわけはなくて、どうにか振り向いて欲しくて

 “そうだ、新しい赤ちゃんが出来たら大切さに気付いてくれるかもしれない”なんて

 子供に望みを託してみたりして……


 馬鹿な道を選んだわ」