私に恋を教えてくれてありがとう【下】

「こちらに来ない?

 コーヒーは飲めるわよね?」


夫人は華子と目を合わさずに、薄明かりの喫茶の円卓に缶コーヒーを置き

細い腰をかけた。


華子の席はもう決まっていた。


缶コーヒーが置いてあるのは、夫人の横だ。


「ありがとうございます……」


華子はか細く言い、腰をかけ、コーヒーに目をやった。



“ブラック”



ドクンと音を鳴らし、内臓が揺れた。



それを横目で見ていた夫人は自分のコーヒーを飲みながら



「……よく……“あの頃”自分が飲みもしないコーヒーの缶がゴミ箱にあったものでね……


 ひょっとしたらと思って……」


意味ありげに口角をあげた。


どんよりとした間があいたが、夫人はくすりと笑ってみせた。


「本当は忘れていたのよ……そんなこと。

 でも先日あなたの娘さんとお茶をしてね。

 その時彼女、ブラックだったから

 あなたもそうなんじゃないかしらって思ったのよ」