私に恋を教えてくれてありがとう【下】

『今日からは

 いつもと違う道を通って帰りなさい

 そろそろ大丈夫だと思うわ』


誰からかの指示を華子は忠実に守り


まだ蝉の鳴く明るい道のりを


胃をさすりながら帰った。




頭の中には言葉が渦巻き


腹には仕事場の環境からの一物が


いつも重みをもたらしていた。



その体調のせいか

外気もそれにならい酷くもやっとしている。


家々の飼い犬は

軽やかな跳躍が目立たなく


のら猫は猫の動きをさぼっていた。




快活に動き回るのは

虫を喰らいに低空飛行で心電図みたいに飛び交う


無数の蝙蝠(こうもり)と



公園で無垢な顔を見せる

なにも恐れを知らない人間の子供。



この中に私と同じ経験をしてしまう子がいません様に……


華子は偽善かもしれない、と


苦笑し足を速めようとしたが



灰色の舗装はまだ冷めることができず


ため込んだ熱気を呪いの様に華子の足に絡ませ


行く手を阻ませた。