私に恋を教えてくれてありがとう【下】

華子は慌てて煩い蝉を追い払う様に窓を閉め

細かくせき込んだ。

「あ~!

 なんでもないの!

 大丈夫だからさ!」



『ほら』



間、髪を入れずに返ってきた。



『いつもと全然違うじゃないか

 言えないなら仕様がないけど

 無理はしないでよ?

 
 ……俺も辛くなるしさ

 自然でいて?』



「……うん……ありがとう」




この男は核心付いてくる。


前まではこういった言動は見下されている感じがして

華子は嫌いだった。



でも何故だろうか……



“自然と”視界が曇ってゆく。


何故だろう


こんなに晴れているのに崩れていくのは……。




ゲリラ豪雨は熱く


悲しい歌の雨鳴りはどこか美しい。





華子はベールの下を露わにし



滓を流す様に熱く激しく嗚咽した。


『……佐藤……

 ありがとう……』





電波にのせ彼に届いた華子の声は


五線譜にのせられた


音符たちとなったのかもしれない。




彼が指揮を振り、その指揮を信じ


音を並べた様だった。