私に恋を教えてくれてありがとう【下】

あちら側の蝉が

この沈黙をがやがや異常に騒ぎ立てるので


華子はその音に気を取られ

今何を考えればいいのか

思考回路を失いかけた。



『……あのさ……』




彼が先に沈黙を破った。




「ん?」



『大丈夫?』




「?何が?」




華子は百合に様に目をぱちりと見開いた。



『元気ないでしょ


 泣いてた声してる』




息が止まった。



全身に静かに大きな脈が打ち

今度はこちら側のじりじりとした声と

電磁波が

華子の聴力を脅(おびや)かした。


口はぱくぱくと空振りし

声にしようとはするが

上手く空気に振動を与えることが出来ない。



そして一番に成功した音が


「……ん」


だった。



『俺に話せる?』



「ふぇ!?」



しまった。

“ん”という言葉で肯定してしまったのだ。