私に恋を教えてくれてありがとう【下】

雨の止んだいつもより涼しげな夜

公園のけやきの木は

沢山の雨粒をぼたぼた落とし

身軽になろうとしていた。




漆黒の闇とは言えない。


街頭の明かりがこうこうとして

雨粒をあしらった緑を

輝かせているのだから……。



昨日までの蝉は

まるでバイオリンみたいに聞こえて

飛行機雲は五線譜か

愛しい人への結ばれないがいつまでも続く糸かの様だった。



華子は勇猛果敢に戦ったであろう

ブランコの汗を優しく払い

腰を下ろし

鼻からすーっと雨露の香りを苦しくなるほど吸った。


その空気は窒息状態の脳にまわり

重みを持たせたか

華子の頭は脊椎が支えられる限り

後ろにもたれ

そのまま鼻から吐きだし

思い切り下がりそうな口角を

そうさせまいと食いしばった。