私に恋を教えてくれてありがとう【下】

華子は厨房のソースを作っているであろう

フライパンが五徳に当たっている音を聞きながら

コーヒーをブラックですすった。


そろそろ切りかかってくるのではないだろうかと下唇をきりっと噛んだ。



吹き出物の顎が動いた。




「私は知ってるわよ?」





ついにきた。



滝瀬は不気味な顔を上品に見せようと


一瞬見せた黄色い歯を

無理に口におさめようとしているが


自分の手中に華子がいるという感情を隠せないでいる。



華子の心臓と喉仏に重いものがぶら下がった。



それはこの先発する言葉であり、

感情であり

想い……。



“知っている”の真意を見定めないといけない。


華子はもう一度カップを口に運び

ゆっくり何も発することなく首を傾げた。



「あら、知らないふりするのかしら?

 まぁ、それならそれでいいけれど

 ……」


滝瀬はばらばらなデザインのキルティングの手提げからよれたソフトケースを出し

厳かを装って業と小出しした。



華子は目を細め眉間にしわを寄せた。


よれたソフトケースから出てきたのは

若草色の便箋

黒のボールペン

そして……。




イボガエルと華子は目が合った。



やや顎を下げ3重の段を作った女は糸目をほどき

新月直後の目を見開き

にったりした。