私に恋を教えてくれてありがとう【下】

どうも彼女はここの常連らしい。

学生の頃はよく

“いつもの!って言って頼みたいね”と百合と話たりしていたが

この滝瀬という人間を見てしまった今

常連客の厭わしさしか感じない。



よほど地域に密着した店以外は

一期一会の間隔で訪れる方が

店にとっていいのではないだろうかと

脳の端で考えていた。


この店はマンションの一階を利用しているため

窓はなく、出入り口の引き戸だけでしか

外の暗さ、激しさを窺うことが出来ない。


出来れば目の前に居るこの女を観察したくないが

他に目を置く場所が見当たらないのが残念で仕方ない。


とりあえず世間話を聞いている間は

顎の周りの吹き出物の数を

数えることにした。


「ここはケーキも美味しいのよ?

 コーヒー遅いわね……

 まま?ままー!!

 コーヒー忘れてないわよねー?」


滝瀬は身を乗り出して先ほどの若いウエイトレス向けて

馴れ馴れしいおかま声を張り上げたが

今度そそくさと出てきたのは

滝瀬と同い年程の“まま”と呼ばれている人だった。