私に恋を教えてくれてありがとう【下】

華子は嵐の中滝瀬の車に乗せられ

近くのレストランへと連れられた。


「ここのパスタはおいしいのよ?

 奢るからちゃんと食べてね!

 さぁ!

 決まったかしら?」


半ば強引に話は進められる。


華子は頷くことしか許されていない様だ。



狭いこの店舗に似つかわしくないグランドピアノは

今の華子の様だ。


見目はいいのに弾き手がいない……




ただただ俯き影を落とす。



しかし俯くと背が丸まり、後ろに煩く生えている観葉植物に当たるので

それに気付く度

華子は姿勢を正し、

しっかりと気を持てと言われている気がした。



滝瀬は勝手に注文をしていった。



「私はいつもの生ハムサラダにペペロンチーノ

 あと、彼女には

 辛いのは苦手かしら?


 じゃぁトマトクリームのものをお願いね?


 食前にブレンドコーヒーも……

 飲めるわよね?

 以上で

 復唱はいいので早くもってきてね?」


「はい、かしこまりました」



若いウエイトレスが無愛想に言った。



掌をひらひらと上品ぶっているこの素振りは

店員にとっても有害なものであろう

苦い表情を見せない様に食いしばっているのが分かった。