「いらっしゃいませー」


店員の声が聞こえる。
先を歩く一樹と少し離れて歩く。


案内された席に着き、一樹が最初に言葉を口にした。


「ババ抜きしない?」

『…うん』


ここに来てトランプ?とか思うけど口にしない。いや、出来ない。初めて出会った時と同じことを言う一樹。そういや、あの時はまだ名前すら知らなかったな…



「…あのさ、」

配られたトランプを持ち、片手で抜いていく彼が話し出す。


「お前、俺の事さ…。嫌いだった?」

『…嫌い、じゃない』


寧ろその逆だよ。言葉には出来ないけど…。嫌いになんてなれないよ。


「そっか…」

『うん』


…一樹のカードを一枚抜く。
一樹の番の時、必ず喋り出す。


「俺さ、あん時好きな子がいたんだよ」

『…へー』


知ってる。
言わないで。それだけは言わないでよ。


「ソイツはさ、入学式で喋ったのに…。俺の事忘れてんだし。」

『……』

「…しかも、最初に話し掛けたら、機嫌悪そうだったのに」



どんどん話し出す一樹。もう言わないで。


「んで、屋上で好きな子とトランプしてた。…物凄ぇダサいけど、このトランプ、好きな子とのだけ使った。」


…トランプ。
いつの間にか、手持ちはババとハートの1だけ。
…期待しちゃってもいいの?