今度はペシェが驚く番だった。

 怪我を治すという行為を制されては、表情にも困る。

 その上、既に半分以上の治療は終わり、未熟ながらも人の命を繋ぎ止める程度の処置は出来上がっていた。

 アリトの高飛車な笑い声と共に、ギバルは抑えられていた欲望を開花させペシェを殴り飛ばした。

「三対三。
 丁度良かったわ」

「アリトさん、彼に薬を盛りましたね」

 スピカがペシェを助け起こして、珍しく毒づく。

「実験は終わっていないわ。
 そんなこと、わかりきっているでしょう」

 アリトは悪びれ無く言い放ち、指を軽く鳴らす。

 式紙の銀雨が姿を現し、スピカに突撃してくる。

「神官さん、あの方は薬の効力が切れれば元に戻ります。
 それまで、死なないように援護してあげてください」

 ペシェにそれだけを告げたスピカは、鍵詞を使い、向かってきた銀雨に翡翠の剣を突き立てた。

 銀雨の命霊(ミコトダマ)に傷が付くも、直ぐに修正してしまう。これは、アリトが銀雨に仕込んだ式紙の技術といえた。
「アリトさん、目的はそれだけではないですよね」

「それを言ってどうなるのかしら。
 スピカ副隊長さんには関係ないことよ」