女ひとりなら、今の自分は躊躇い無く殺れる。

 ましてや、自分をこうした人間に情けを掛ける思考がこの世にあるのだろうか。


 不覚にも飲まされた薬は開発中の紅宝石と呼ばれる、種強精剤だ。

 ドラゴンが使う精神術の真似事をしようとした神官の闇部が作った非合法の薬物で、人間の底に眠る意志や野望を汲み取り増幅させ、身体麻痺を引き起こさせ己の力が強まったと幻覚を見せる。

 投与されたが最後、人は全てを無くし薬の効果が切れるまで暴れ狂う。

 それを、飲ませた女が知らないわけがない。

 起き上がり、怒りだけで扉を破壊する。

 素手で扉を破壊する自分に、薬の力とは言え酔いしれる。

 そうなると、もう止まることは無かった。

 女目掛けて掴み掛かり、その首を折ろうと力を入れた。

 だが、その背中に激痛が走る。

 女を突き飛ばして首だけで振り向いた先に、自分よりも二十年下の娘が、背中からその手を抜いて間合いを計る。

「が、あ、っ」

 痛みに吠えて其方に向かう。

 普通なら止まっている。

 命の確保を優先している状態にも関わらず、攻撃を仕掛けてくる娘に立ち向かった。

 決着は一瞬だ。