「ん、副、おはよう」

 声に振り向きもせず、酒瓶を探して手を這わせる彼の隣に、皺だらけのスーツを着たスピカが居る。

「おはようじゃないですよ。
 ヴォルラスさんが心配してましたよ、帰りましょう」

「なんだ、お前生きてたのか」

 スピカの声は聞こえていたが、彼は全く無視をして空のグラスに口を付けた。

「生きてます。
 本調子でないだけですよ」

「そっか、何時もの貧血か」

「そ、そんなところです」

 種師の女は月に二度、種術の類に変化が訪れる。スピカの場合は、IDが男で通ってるため、ごまかすために貧血と言う手段を取っているのだ。

 彼が、スピカを女だと気づいているかどうかは、残念ながらスピカには分からなかった。一度、聞いてみたいと思っているのだが、未だに実行されていない。

「なあ、なんで此処が分かったんだ」

 彼は、グラスを置いて溜め息混じりに目線を向けた。

「隊長は、嫌でも目立ちますから」

「なんだよそれ」

 スピカの返答に、眉を跳ね上げる。

「言葉のまんまですよ。
 話は聞きました、それから、ヴォルラスさんが政府に連れて行かれてしまいました。
 神官を匿ったという理由で」