早速、チェストが、紙に絵を描くのをクルルは見ながら、それきり無言で医学書を読み耽るブギルを一瞥した。

 分厚い医学書の奥には文字と記号と挿し絵が見える。

「兄貴は、あれで種を使わない医者なんっすよ」

「治種を使わない医者なんているのかよ」

「ほら、ウィルス系の治療は種にも不可能っしょ?
 兄貴は、そっち専門で昔は衛生兵をやってたんっす」

 鉛筆と言われる代物で、特徴を聞き出して描く絵は、どこかで見たような娘に近づいていく。

「衛生兵には見えない。
 胡散臭い種師ってかんじだ」

「そりゃ、何年も前の話らしいっすからね。
 おわ、これ、帽子被せてエプロンつけたら、あんときの料理長じゃないっすか」


「は、嘘だろっ、あいつはあんなおどついた奴じゃないし、第一料理なんてできるわけねえ」

 クルルが紙をチェストから奪い穴の空くほど眺める。

「なんで、こんなににてんだよ」

「俺っち、言われた通り描いたっすよ」

 目線を交わす二人。

「探してみればいい。
 ピュア頼むよ」

 その話をいつのまに聞いていたのかブギルの声に桃色の式紙鸚哥が姿を現し、軽く開いた窓の隙間から風の吹く夜に姿を消した。