言ってブギルが離れると、アリトも椅子を回してリンメイの様子を見遣る。

 毒を刺された後から、アリトの部下によりこの隠し研究所に運ばれ、監禁状態にあったのだ。

 挑発的に睨み上げるリンメイの頬は軽く腫れている。

「やれやれ、君も手荒くなったものだね」

 アリトに呆れたよう問い掛けたブギルは、リンメイの頬に手を触れる。

「何をするっ」

 噛み付くように言い放ったリンメイは無視して、短い言葉を掛ける。

「私は医者みたいなものでね。 
 ああ、治療費は気にしなくて良い」

「勝手なことはしないで頂戴。
 さっきの式紙もわざとでしょう」

 アリトが立ち上がり椅子が倒れた。

「勝手なのはどっちかな。
 副隊長君を連れ去ったのは、多分、アリトの間違いだ」

 振り向かないままブギルが言う。

「まさか、DMが余計な二人まで連れてくるとは思わなかったのよ」

 アリトがブギルに目線を向けて抗議する。

「そこで、計画を変えなかったのは何故だ。
 君らしくもない」
 ブギルの振り向かない一言に、アリトは苛々と答える。

「挿入したディスクが抜けない上に、奴らを止める術がどこにも書いていなかったのよ」