「あーっ!携帯あんじゃん!電話しよう電話っ。」
「あっ、そっか。」
その手があったと言って携帯をポケットから取り出す優。
隣で早く、と急かすあたし。
番号を回し終え耳に当てる。
「…」
待ってる間のこの緊張感。
海の音だけが響く。
「…もしもーし。何だよ優。」
周りは静かで、受話器から漏れる池上ののん気な声。
「何だよじゃねー。今どこいんだよ。」
池ヶ谷とは対象に珍しく焦る優の声。
「あ、言い忘れてた。一日早く東京きたんだよ。」
電話越しでもわかる、嬉しそうな声。
こんな池上は知らない。
あたしが知ってんのは不誠実で、いつでも澄ましてる、たらしな池ヶ谷。

