【完】絶対引力



引っ張られること10分。

思ったとおり、すぐそこではなかった。


「ここだよ。」


私の腕を離して敷地内に入っていく。

そして、ドアを開けて伊織を呼ぶ。


私は腕を離されてから一歩も歩いていない。

そんな私を見かねてか、涼が横に来て声を掛けた。


「会えないまま東京に戻りたいの…?」


このまま帰る…。

そんなのは嫌だ…。


「あ、のさ…。伊織いないみたいなんだよね…。」


気まずそうに優が戻ってきた。

いないと聞いてがっかりしたような、安心したような…。


「伊織のお母さんが言うには…。」


「ちょっと、散歩してくる…1人で…。」


優の言葉を遮って歩き出す。

「…わかった…。早めにあたしんち帰ってきてね。迷ったら人に聞けば分かるからっ。」


うん、と返事をして歩き出す。

その後姿は寂しそうに…。