村上君からのお誘いで、一緒に帰る事になった。

オレンジ色に染まった空の下を、ゆっくり歩く。
今までの私には考えられない光景だ。


「そう言えば…携帯のアドレスと番号教えて!」

「うん。いいよ。」

「これ俺のアドレスやから、ここに送ってくれへん?」

「分かった。」


道路の真ん中に二人して立ち止まって、アドレスと番号を交換した。
お父さん以外の男の人を登録するのは、村上君が初めてだ。

見慣れない名前が、アドレス帳にあると何だか不思議な気持ちになった。


「あ…。」

「どうした?」


この前来た公園が目の前にあって、彼の事を思い出した。
ギターを持って、歌っていた輝君を…。


「前にね、この公園で歌ってる人がいたの。凄く上手くて、ギターの音が心地よかったんだ。」

「へー…。今はもう歌ってないん?」

「昼間に歌ってるみたい。」

「そうなんや。」

「輝君、どうしてるかなぁ。」

「輝君…?」


名前を出した途端、村上君の表情が変わった。
眉間に皺をよせて、何か考えている様子。


「名字は?」

「山本だけど…」

「山本 輝…か。」

「何か知ってるの?」

「ううん。何もないから。」

「変なの…。」


私は、気になって仕方がなかった。
今の村上君の言い方は、絶対何か知ってるはず。

だとしても、何で隠すのかが分からなかった。