だけども男自身、それは二度と叶うはずがないのだとも理解していた。

人は制限時間があるからその分、生きようと努力する。
あとはその制限時間の中で、何のために生きようかは自分で見出すだけなのだ。

次に男は少女の頭の上で眠る“人形”に目が奪われた。



「ジゼル…だったかな。あの子がいつも、大事に持っていた…」



その人形は、今の百合亜と同じ衣装を身に纏っている。
男が百合亜とお揃いの服に着替えさせたのだった。

こうして見ていると、百合亜が人形でジゼルが人間のようにみえる。
人間より人間らしいその人形は心を宿しているのか、今にも喋り出しそう。

紫色にきらめく瞳が逆に人間らしさを強調していた。
アンティークとしては、なかなか立派なものなのだろう。

そんなことを考えている時だった。




『――貴方は本当にいい娘さんをお持ちの様で』




声が聞こえたのは、確かだった。



「誰だッ!?わたしの許可なしに此処に入りこんだ奴は!?」



怒鳴りつけるように言うと、男は後ろに振り返った。
そこには、よく目立つ一人の黒い格好をした若い男と人形のような美しい少女の姿があった。

二人とも顔立ちがいいので二人でいると余計に目立つ。


よく見ると若い男は、部屋にあるチェアに座り込み、くつろいでいる。
ティーカップを手に取り紅茶を飲んでいるその姿は、いかにも有意義そうだ。