今にも、吐息が聞こえてきそうで…

しかし、少女はもう二度と、目覚めることなどない。
それは、今は亡き少女の亡骸だったためである――…

そこに在るだけの存在としては、薔薇と同じようなものであった。



「…百合亜」



男はそう呟くと、少女――百合亜が横たわるベッドへと近づいた。

百合亜の周りには無数の薔薇が少女を囲んでいた。
そして、男は腕に持っていた薔薇をまたそこに敷き詰める。

薔薇は生前、百合亜が好きだった花である。
男はそれを知っている故にこのような行動を起こしたのだった。

彼女は原因不明の病に侵されていたのは真実で衰弱していく様子は目にとれて分かった。
しかし、そんな彼女でも数日前までは此処で確かに息をしていた。

二人家族であった百合亜を失った男は、愛しさに溺れるしかないのだ。

男はベッドに腰を掛けると、手で百合亜をなぞるように頬を撫でる。

愛しさが顔から零れ、笑みになる。

冷たく氷ついているようなその体温を感じると、重い現実を受け入れてしまいそうになる。

以前まではすぐそこに温もりがあったのに今は、ないのだと思うと悔しくてしょうがない。
男はその悔しさを噛み締める他、なかった。

涙を流したらそれこそ、自分を制限出来ないような気がしたからである。

今、男が望むことは唯一、ひとつだけ。
それは、娘である百合亜とまた一緒に、笑うこと。

それ以上に望むことなど何もない。