しっかりしろよ、自分。 情けないぞ!!
「あのさ…」
「あのね…」
僕と波流が口火を切ったのは、全く同時だった。
「あ…ごめんなさい」
小さな声で、波流が言った。真っ赤に火照った頬は、まるで夕日を思わせる。
「いいよ。…先に喋って」
僕は、順番を譲った。レディ・ファーストだ。
波流は、何やら思い悩んでいる様子だった。右へ左へ、行ったり来たりする視線。浅い息遣い。
やがて、彼女はおもむろに唇を開いた。
「苦しい…」
「え?」
「苦しいよ…」
…えーと。
これはどういう意味なんだろう。
僕が混乱していると、波流は激しく首を横に振った。今にも泣き出しそうな表情で。
「苦しいよ、涼クン…」
「は…波流…?」
「涼クンのせいで…私、おかしくなっちゃったよ…!!」
叫ぶなり、彼女は僕の胸に飛び込んできた。
「わゎっ!!」
僕は、焦った。
波流が、何を言いたいのか全然わからない。
こんな時、どうすればいいのか、僕は知らない!
パニックを起こしかけた自分自身を、深呼吸して何とか落ち着かせた。
波流は、僕の胸にしがみついたまま、じっとしている。
彼女が、こんな感情的になるのは、初めてだ。
僕は、恐る恐る波流の背中に腕を回した。
細くて華奢な波流の背中。力を入れすぎたら、折れてしまいそうだ。
ふわ、とレモングラスの香りがした。
日だまりの匂い。
僕の大好きな、波流の匂い───。
そう。
僕が、伝えたいのは。
不甲斐ない僕が、それでもシッカリと伝えたいのは。
「波流…───」
もう、迷わない。
自分の意志に、従うんだ。
「波流…───」
波流が、細かく震えながら、顔を上げた。
僕は、小さく息を吸った。
「好きだよ────」
