この世界で二度きみを殺す

『うん!
はぁ~~、大学生かぁ~~。
大学生のそーちゃんかぁ』



ちさとは二年後を見ているような目で、水とお手ふきしかないテーブルの上に頬杖をつく。


そうして見せた笑顔は、頬を覆う手のひらから零れ落ちてしまいそうなほどにとろけていた。



『ねね、バッグは絶対あのブルーにしてね。あと、最初に見た黒縁の伊達メガネもかけるの!

はぁ、考えただけで胸がきゅんきゅんする~。
他の女の子が寄ってきちゃったらどうしよう~~』


『……嬉しそうだけど』


『えへへっ、バレた?』



ちさとは頬を覆っていた手のひらを顔の前でこすり合わせ、やや上を向いた。



『大好きな人が、もっとも~~っとカッコ良くなるのって、凄く嬉しいから。

ちさとが大好きな人はこんなに素敵なんだよって思って、もっと幸せになる』



そう言って、ちさとは瞳や口が線になるほどに顔を緩めた。




―――僕はちさとのこういう所が苦手だ。


言葉に裏表が感じられなくて、それでいてストレートだからだ。



シンプルな質問の答えにはイエスかノーしか選択肢がないのと同じように、

真っ直ぐな言葉に捻りを入れた返事は似つかわしくない。


けれど、同じくらい真っ直ぐな受け答えを、僕は持ち合わせていない。



顔を覆う帽子が無いのが気になり、代わりに人差し指でこめかみをかいた。


こういう時は、不自然さがない程度に会話を終了させるに限る。