ちさとが誰かに物をねだるのを、僕はあまり見たことがない。


小さな物を欲しがる様子は時々見せるけれど、改まった場面ではいつもはぐらかす。



だから僕は、ちさとが本当に欲しい物を知らない。



去年の誕生日に、散々悩んだ挙句に買った自分の趣味丸出しのCDのアルバムも、

何をとち狂ったのか、一昨年に買ってしまった正体すら不明の可愛くないぬいぐるみも、

全部、全部、同じくらいに、喜んでくれていた。



鼻を赤くし、瞳をほんの少し、潤ませて。


大事そうに、抱えながら。



―――だからこそ、僕は居心地の悪さを感じていた。



何でそんなのもらって嬉しいんだよ、って。



いっそ"アレ欲しい、コレ欲しい"って言ってくれれば、こんな惨めな思いはしないで済むのにって。




ちさとの心の中を知っているようで知っていないし、本人も大事なことは何も言わない。



ちさとは僕のことが好きなはずなのに。