『ちさとちゃんの誕生日だし、出かけるなら食事代くらい出そうと思ってたんだけど……何やってんの?』



僕は『ああ、まぁ』と曖昧な苦笑いで誤魔化してから、ちさとに話を振る。



『ちさと、何か食べたいものある?』


『うーん』



ちさとは唇をやや上に向け、人差し指を当てる。


そして、僕の隣から母親の隣へと軽やかな歩みで移動し、細長い母親を見上げる。



『ちさとには、ママがママでいてくれる事が一番のプレゼントだよ♪』


『んま!』



母親の目が丸くなり、頬が桃色に染まっている。


そしてちさとは『えへへっ』と瞳や口で柔らかく半円を描くと、玄関へと向かっていった。


僕もそれに続くべきか決めかねていると、母親が四つ折りの五千円札を渡してきた。



『ちさとちゃんはああ言ってたけど…、一応これね。
好きそうな物選んであげて』



僕は中途半端に頷きながら、首を傾げるようにした。


けれど母親はそれを了解のしぐさと取ったようで、物干し作業に戻るべく二階へと向かった。