「そーちゃん、今日は疲れたならちさとが全部やるよ?」



手元を泡だらけにしながら、僕はため息をついてしまっていたらしい。


皿拭き&片付け担当のちさとが、背後から顔を覗き込んでくる。



「大丈夫だよ」



そう言って手元に視線を落とした時、ちさとの腕が腰の辺りに絡んできた。




「……今日、大変じゃなかった?」


「………」


「ごめんね、ごめんね、ちさとのせいで…。
そーちゃんが学校休まないの、知ってるのに」



回された腕に力が込められる。


そしてその小さな手のひらが開き、僕の腹や胸板をまさぐるように動き始める。



「……ちさと。
お母さん、いる」



両手に洗い物を抱えているので、流し台から離れないように首をひねり、

背後のちさとに諭すように小さく呟く。



ちさとが素早く身を引いたので、声色をいつもと同じに戻して言った。



「まぁ皆勤狙ってるしね」



目の端に、眉を潜めた不満そうな顔が見えるけど、

僕はそれに気づかないふりをする。



「今日は終わったわけだし、もう大丈夫だよ。
はいこれ」


「……任されたぁ」



不満そうなまま、僕から洗い終えた皿を受け取る。



約束を破って遅めに帰宅したにも関わらず、何も咎めなてこなかったのは、罪悪感があったからか。