そして黒板に指示が書かれると、クラス中に日本語発音の英語が飛び交い始める。



教科書の毛糸とトーマスは、過去完了の文法を用いて会話をしている。


それを自分の実話に当てはめて、パートナーと会話をしろというものだ。


ちなみに毛糸は徹底した聞き役である。



進藤さんが端正な横顔をこちらに向け、黒板に目をやると、

こちらにまた向き直り、"しくしくジェスチャー"をした。



即座にそれが授業の枠内にあるものだと察し、僕は

「ワッツ ハープンド?」

と日本人向けの英語を繰り出す。



「When I went to the library,the committee had already finished. 」


「おお」



思わず、"Oh"ではなく、日本語の方の感嘆の声を上げる。


和訳すると、
"私が図書室へ行った時、既に委員会は終わっていました"

という感じだろうか。



フルエントリー(流暢な)で発音もグッドな進藤さんの英語に、背後で先生が満足げに頷く。



毛糸はそれに気圧されてしまい、


「ワイ?(※why?)」
「I had a lot of things to do.」

「ウェン?(※when?)」
「Wednesday.」

「ハー(※はーではなくhuh)」
「(しくしくジェスチャー)」


という、恥部を晒すような、何ともみっともないやり取りになってしまった。



…うん、まあ、進藤さんの引き立て役になれたなら、それはそれで。