―――10年前。


ちさとは両親を殺した。



比喩ではない。


車に轢かれそうになるのを両親が庇ったとか、そういう事ではない。



包丁で、背中から。


昨日の夜、ちさとがそうされたように。



しかし、両親を殺さなかったら、ちさとの方が殺されていたと思う。



ちさとは虐待を受けていた。



うちの両親は、それについては硬く口を閉ざしていて、

それがどんなものだったのかは今でも詳しくはわからない。



けれどちさとは、虐待の行く末に、昔"拒食症"というものを患っていた気がする。


食物を目の前にするのはおろか、匂いだけでも吐いてしまうのだ。



どんなに頑張っても3口が限界。


体がどのように食物を拒むのか僕には理解できないけれど、

喉の辺りをきつく握り締めながら食事をするその様子を見るのが、

子供ながらに心苦しかったのを覚えている。



そして今でも、さっきのような発作を時々起こしてしまうのだ。



それでも最近は落ち着いていたのに、僕が気まぐれにテレビなんかをつけてしまったのがいけなかったんだ。



過去の事を思い出す必要なんて、無かったのに。