そこで僕ははっとした。


ズボンの膝の辺りが、急にひんやりしたからだ。



さっきまでテレビを見ていたちさとが、いつの間にか僕の膝に顔面を抑え付けている。


両手で僕のズボンを握りしめ、そこから小刻みな振動を僅かに感じ取る。



そして、ちさとが嗚咽を噛み殺し、口を開こうとしているのがわかった。



「……でも…。
ちさとじゃない人は、どうなのかなぁ…?」


「………。」


「好きな人と一緒に生きたいって思っても、一緒に殺されたいって思う人は、いるのかなぁ?」


「………。」



ちさとの後頭部を、つむじから首筋にかけて、そっと撫でる。



「……テレビ、つまんないね。
ラジオにしようか」



ちさとの背中をぽんぽんと叩き、席を離れる合図をすると、

少し間を置いてから、僕を解放してくれた。



そして、我が家ではほとんど使われていないラジカセにスイッチを入れると、

まどろみを誘う曲が流れる。



さらに、女性にしては低いDJの声は、その威力に拍車を掛けた。



僕はその足で台所へ向かい、

ホットミルクを入れたカップを二つ用意してから、再びリビングへ戻った。



ちさとはソファに突っ伏している。