不満そうなちさとに、満面の笑みを向ける。



「うん。だからそれがお風呂。
ちさと、プール好きでしょ?」



ひよこのおもちゃを何個か放り投げ、ぽこぽこと浮かばせる。


それを見て、ちさとは「好きだけどぉ」と口を尖らせた。



「だってこれじゃ小っちゃくて、そーちゃんも入れない」


「うん、だから僕は入らないで、ちさとの頭を洗う係」


「それじゃ意味なああああいっ」



ちさとは二つに結った髪を、ぶんぶんと左右に激しく振った。


僕を見上げる目には、赤い炎が灯りかけていて、歯をきつく食いしばっている。


目尻には涙が浮かんでいる。



「じ、じゃあ…、ちさとのを洗い終わったら、お願いしようかな。
あ、ほら。お湯がたぷたぷだよ」



そう言ってプールの方へ目をやると、ちさとも合わせて視線を変えた。



張られたお湯がきらきらと日差しを反射して、波を立てるその様子は、
この年になっても少しわくわくしてしまう。


なのでちさとにとっては、僕より更に心躍る光景のはず。



精神年齢が10歳くらいでストップしている、ちさとにとっては。