「進藤さん」



廊下を七歩ほど走った進藤さんに聞こえるように、大きめな声で呼びかける。


進藤さんは、体を一回、縦に大きく奮わせた。



そして、こちらに背を向けて立ち止まっているその姿に向かって、言葉を続ける。



「図書室って、放課後遅くてもやってるのかな?」



特に用事はなかったけれど、あのまま無反応で帰してしまうのも気が引けたので、

適当な話題を選んだ。



「……先生が校舎にいる間は、開いてる。
受付に人がいるのは4時半までだけど」


「そうなんだ。
わかった、ありがとう」



笑顔を繕う。


進藤さんはこちらを向いていないのだから、意味のないことなんだけども。



そうして進藤さんは、こちらを一瞥することもなく、

そのまま廊下の向こうまで駆けていった。



僕の中には、進藤さんの言葉が、渦巻いている。