姉さんじゃない、"本当のちさと"がいなくなった日の事だった。



あの公園で、僕は瞼を閉じるちさとと一緒になろうとした。


筆箱からカッターを取り出す。手首に当てる。



…けど、怖くて僕にはできなかった。


ちさとはこんなに寂しくて、怖い思いをしたというのに、僕は血一滴すら流せなかった。



闇に潰されそうで、潰されなくて。


目の前にある事実に身が裂けそうで、けれど裂いてはくれなくて。


風が体を貫きそうで、それでも僕をちさとの元へ連れてってはくれない。



そうだこれは悪夢だと、僕は思う。


けれど手首に残ったカッターの痕がひりひり痛み、僕を苛む。


悪夢だと思う事が、夢に、妄想に、過ぎないのだと。





気付けば僕は、電話の向こうの姉さんに助けを求めていた。



"ごめん、死ねなかった"と、それだけを伝えて。