僕は乾ききった唇を、ぴりぴりとした痛みと共に開く。



「死…んだの…、まさか」



姉さんが手に持っていた定規を地面に捨てて、こちらに歩いてくる。


そして僕の目の前に立ち止まり、膝をついてしゃがみ込む。


僕の顔を覗き込むような感じに。



「ん、大丈夫。息はしてるみたいだから。
苦しそうじゃないのを見ると、気は失ってるみたいだけど」



姉さんは誰かの携帯を適当に拾い上げ、何処かへ電波を繋げると、すぐに遮断した。


そうして止血をしようと、僕の傷口付近に姉さんのベルトが巻かれる。



「―ッ!」



激痛に、思わず声が漏れる。



「ごめんね。我慢して。もうすぐ助け、くるから」



そう言うと、僕の冷え切った手の先を揉みだす。


暖かい。


けど、ちさとの柔らかな手とは、また違う。


何と言うか、姉さんのは、もう少し硬い感じ。


しっかりしてるとも言うけど、癖が、違う。



顔は、体型は、姿かたちはちさとにそっくりなのに。


横顔や後姿じゃ咄嗟の区別はつかないのに。



でも、よくよく聞けば声だって、全然違う。