やばい。

思ったより時間を食ってしまった。



時計は十二時の真ん中辺りを指しており、

昼休みが半分以上終わってしまっている事を示していた。



ひとまず、これからお弁当を食べなくては。



コピーを脇に抱え、小走りで図書室を出た。



そうして扉を出て、一歩、二歩、三歩…。


そこで違和感を感じ、立ち止まる。




――人間は、自分の感覚に靄がかかるのを嫌う動物だ。


だから、それが視覚で解決できるものであれば、

振り向いたり二度見するのは、人間の本能だと言っていい。



しかし僕はそれをせず、ただ立ち止まったままだ。



脳内に、黄色と赤の中間の、だいだい色の警告信号が響き渡っているのだ。


『"それ"と目を合わせるな』と。




「そぉちゃん…」




鼓動が激しくなると共に、全身が大きく縦に痙攣する。



その声の聞こえる方向に、ゆっくりと振り向く。


首がギシギシと軋んで、滑らかな行動とは程遠い。




…案の定、ちさとがいた。



扉の外側にぴったりとくっついているので、中から出てくる人には姿が見えない。



用事を終えて出てきた別の男子たちが、「うおっ」と声を上げながら通り過ぎていく。



その後出てくる人たちからも、冷めた視線をもれなく頂戴しているが、

今の僕には、そんなのは気にならなかった。



というか、気にする余裕がなかった。