この世界で二度きみを殺す

息を吸う。まだ吸う。
体中にO2(酸素)を巡らせる。
そして吐く。
瞼を落とし、そして開く。




「――――……」




その瞬間、半径1メートル以内に密集していた全神経が、密度はそのままにこの公園全域に拡張された。


入り口からブランコまでおおよそ10歩と半分。


視神経が働かない背後を軸に聴覚を働かせ、丸めていた背を真っ直ぐに正す。


そうして進める足はさっきとまるで別物で、その静かさは、空気の上を踏んでいるのではと錯覚するほど。



一歩、



二歩、



三歩、



四歩。



次第に後戻りの出来ない位置に、そしてちさとの近くへと進んでいく。


そしてその距離が残り三歩を切る瞬間。


背後に注意を払わせていた聴覚を含めた他神経を、全て目の前の少女に集中する。


利き足を半歩遅らせ、全体重を前に押しやる準備をする。


狙いを定め、2秒間の黙祷。


早まった弔いではない。心に通う血液を、全て全身に送り込むためだ。


そうして心が死んだ時、目を見開いてバッグを捨てた。



がしゃりと金属音が混じった音が、公園内に響く。


その音で、ちさとが肩を縦に大きく揺らせて振り向く。

そこから全てが加速していく!


ナイフを抜く、構える、心臓目掛けて走る、突く、どすりと鈍い感覚、

――仕留めた!