この世界で二度きみを殺す

すすり泣く声が聞こえる。



嗚咽を噛み殺して、泣いているのが聞こえる。



その夜、何の前触れもなく目が覚めた僕は、

斜め前の部屋の扉が微かに開いているのを見つけ、気配を悟られないように足音を忍ばせた。



すると隙間から見えたのは抱えた膝に顔を埋め、肩を小さく震わせる、ちさとの後ろ姿。


意地の悪い太った月が、真っ暗な部屋の中、その姿だけをくっきりと浮かばせている。


そして闇に溶け込みたくても溶け切れない、そんなちさとが消え入りそうな声で呟いている。



僕を縛る自分のことが嫌いだと。


そんな自分が、僕に好かれているわけがないのだと。


わかっているのに、離れる勇気が、ないのだと。


だから"ごめんね"を言わない事が、

僕が傍にいるのが当然だと言わんばかりの振る舞いをするのが、

ちさとの、自分へのせめてもの戒めなのだと。



言い訳をしながら傍にいるのが、一番甘えた考えなのだと。