鉄の匂いがする。




手が、べたべたする。




"それ"をそっと抱きかかえ、

用意しておいた縦長のダンボールの中に寝かせる。



添えるのは、一輪の、紫陽花の花。



横たえた"それ"は、鮮明な赤に染まり、

この世から隔離された美しさをかもし出す。



月の光に照らされ一層青白くなった肌は、

頬に飛び散る赤い液体や、長く黒々とした睫を際立たせる。



額にへばりついた前髪を、愛おしむような手つきで、そっと掻き分けてやる。


"それ"が大好きだった行為だ。



けれど、"それ"は僕に笑顔を向けることはない。




…当然か。



"それ"はもう、死んでいるのだから。